第6回(最終回)2020年性能を満たすデファクトスタンダードは存在するのか?
2020年に向けて、IoTデバイスの5倍以上の増加から、モバイル通信データ速度がLTEから50倍以上の5G開始の準備が急がれ、そのデータ処理に対応するデータセンタサーバーも5倍以上の性能が必達で、基幹のEthernetネットワークの速度も100GbEから400GbEへとインフラ整備が必要となる。過去5回の連載では、それらの急激な性能向上を支える半導体パッケージのトレンドとその実現をリードするプレイヤー達の思惑を紹介してきた。
連載の最終回として、それぞれのアプリケーションエリアに対して現在のリーダー達が導入しようとしているパッケージ構造がデファクトスタンダード化され、コストパーフォーマンスとして満足のできるインフラを構築できるかという視点でトレンドを再確認してみたい。
デファクトスタンダードが担う期間は、ムーアの法則の終焉とも言われるテクノロジーノード7n世代までとして、今から4年後の量産開始で最低6年間と仮定する。(2021年以降に対しては、現在導入しようとしている新規パッケージ構造ですら、チップの分割や積層などにより体積当たりのロジック数を増加に対応するための構造としてさらに進化する必要があるので、現在の構造の延長線とは切離すべきであろう。)
モバイルAPの例を見てみよう。FO-WLP(InFO(*1))はパッケージ薄型化を少ない熱変形で実現し、電気特性をさらに向上させる目的で、現在のフリップチップPoP構造に代わり導入されようとしている。表*に示すように、2017年、2019年と、メモリーのデータ帯域確保と熱抑制からバス幅を広げる必要があり、現在のLPDDR4メモリーの380バンプに対してWide IO2規格と同等と想定すると1400バンプ以上の接続を強いられる。結果として、RDLの配線及び間隔の最小は2umレベルが必要となるだろう。電気特性などの懸念点は依然残るものの、現在のInFOはそれを想定した構造となっている。ただ、現在のパッケージコストに戻れる見込みは薄い。FO-WLPは将来のコスト削減の方向性として12インチサイズからその約4倍以上のパネルでの製造が実現すると、FC-CSPタイプのパッケージと同等以下のコストになるとされていた。現在その開発は停滞している。2umレベルの配線幅をパネルで実現できるかどうかの見通しが立っていないからである。APにFO-WLPを適用を考えた2010年ごろには現在のロードマップは見えて無かった事が誤算だったかもしれない。
さらに、FO-WLPの構造として、InFO以前から積極的にAPへの適用を提案してきたeWLB(*2)や、RDL基板にフリップチップというSWIFT(*3)も存在する。パッケージの大きさや性能に大きな差異は無いが、構造の違いから、それぞれの採用材料やプロセスツールが異なる。デファクトスタンダード化(=同じ構造で材料やツールのコストが下がる事)が2019年までに構造が統一されるとは思えない。
サーバー用CPU例はどうだろう。Intelが描くCPU-FPGA、FPGA-HBMなどの接続を2.1D(EMIB(*4))で実現する構造は、データセンタサーバーや高性能ネットワーク実現には大きく貢献する。ARM陣営は、CPU-CPU、CPU-FPGAなどの接続を2.1D(ビルドアップ)で実現しそのマーケットへの進出を狙う。2.1D構造としては、OSATSから提案されているSLIT(*5)などのハイエンドFO-WLPも存在する。2.1D構造においては、できるだけ早く2umに近づく配線密度を達成する事が求められており、それぞれの構造が2017年実用化を目指している。ただ、それぞれの構造の大きな違いにより2.1Dに対してデファクトスタンダードが存在するようにはならない。ただ、コストを見ると、シリコンインターポーザによる2.5D構造からの進化という事から、とりあえずのコスト削減には貢献するが、デファクトスタンダード化による材料面、ツール面のコスト削減効果は期待できない。
モバイル、サーバーとも性能要求に対してパッケージのロードマップは対応しているが、2019年時点までにはデファクトスタンダートとなる構造は存在しないだろう。本来ならばさらに3世代(6年)追加で全体で10年という期間が与えられ、IPの問題などを克服してデファクト化が可能になるのかもしれない。先に述べたように、2021年以後の半導体は従来のテクノロジーノードと異なる方法での進化が想定され、これら新パッケージ構造がその時代を継続して担えるかどうかはまだ不透明な部分が多い事が過去の歴史と大きく異なる。
デファクトスタンダード無しのパッケージ時代に対しては、それぞれのプレイヤー達の描くロードマップと立ちあげのシナリオを理解しないと、ビジネスチャンスが失われる。一方で、この状況は、材料や装置メーカにとって新規にビジネス参入の可能性が広がっていると考えるべきで、業界のトレンドを正しく理解する事でビジネス拡大をして頂きたい。
*1:InFO;TSMC
*2:eWLB;STATSChipPACがリーダー
*3:SWIFT;Amkor
*4:EMIB:Intel
*5:SLIT:SPIL